【16歩目】ファンドレイジングは「資金調達」なのか?

こんにちは、NPO法人アカツキ代表理事の永田賢介です。これまで15回続けてきた『NPOの内部コミュニケーション〜ひとりでできぬもん!』は、『寄付者が主役のファンドレイジング〜ひとりでできぬもん!』とリニューアルし、お届けして参ります。

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内部コミュニケーションはファンドレイジングの大前提になるもの。そのことについては、過去記事の中でも特に多く読まれた以下をご参照いただければ有り難いです。(Webのリニューアルに伴い、「いいね」が消えてしまっていますし、過去の自分の思考の至らなさを恥ずかしく思いますが。。)

【1歩目】ファンドレイジングと内部コミュニケーションの関連性

【6歩目】PRの前にやるべきことがある

さて、今回からはアカツキ設立当初から、セミナーやコンサルティングのメインである「ファンドレイジング」に、もう少し深く入っていきます、と、言っても、劇的にお金になりそうなノウハウやテクニック、ITツール紹介、市場データ等は少ないかもしれません。
地道だけれどきっといつか頭に入れておいて良かったと思って頂けるような、ファンドレイジングの考え方や意義、人との向き合い方、アカツキの実践と支援先ケースから見えてきたことなどを共有していくつもりです。

まず最初に、私たちアカツキは「ファンドレイジング」の事を説明する際に「資金調達」「資源獲得」というような言葉を、極力使わないようにしており、「参加機会の提案」や「仲間づくり」などと説明します。(もちろん、一般的な定義としての英語訳はお伝えした上で)

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主な理由は3つ
1つ目は、NPOではなく市民(≒寄付者)こそが、社会の主役だと考えているため
2つ目は、市民(≒寄付者)がNPOの言うことを鵜呑みにするのではなく、自分の頭で考えて欲しいため
3つ目は、人が人を手段、つまり“金づる”だと見ないようにするため
今回は、この中の特に1つ目について書きたいと思います。

私がセミナーや研修でよく使用するスライド「1×100か・100×1か」というものがあります。これは、人数×金額の意味で、要は1万円のご寄付を100人からいただくか?100万円のご寄付を1人からいただくか?という問いを参加者に投げかけます。
もちろん答えは1つではありませんが、アカツキでは前者の1×100の側に、ファンドレイジングが社会を変える本質的な力を見出しています。

このどちらも、実際に取り組むのは簡単ではありません。例えばあなたが日本の貧困問題に取り組むNPO職員だったとして、100万円を1件頂こうとする場合には、地域で利益をあげている企業に回ったり、その研究をしている大学教員を紹介してもらって会いに行くかもしれません。行政施策や先進事例を調べ、地域のデータを集めて、補助金や助成金の申請書を夜遅くまでかけて書くことでしょう。

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ただもし、1万円を100人から頂こうとする場合には、もちろん100人にお願いするのでは足りませんね、もしかしたら200人、300人、いや500人以上にお願いをして回ることになるかもしれません。お願いだけではなく、お礼を伝え・領収書を発行し・会計の証票や帳簿に正しく記録し・団体によっては年次報告書にお名前を掲載することになります。もしかしたら、人件費の事など考えては「割に合わない」と感じるのは、自然なことかもしれません。

100万円は、使ってしまえばあっという間です。もし週5日×8時間働く常勤職員を雇っているなら、1人1年分にも全く足りません。だったら、100×1の方が効率が良さそうですね。では、その100万円で社会が変わるでしょうか?1000万なら?1億なら?
…少なくとも自分には、いくらお金を積み上げても、いくら優秀なスタッフがいても、社会の根本的な課題は解決しないだろうと感じています。

だから、1×100。1万円のお金をあなたに託した人は、きっと日本の貧困問題について、考え、ある程度の共感や納得感を持ったはずです。場合によっては、「君の話はよくわかった、活動も素晴らしいと思う、絶対に必要だ。だが、すまん、今寄付する余裕が無いんだ」と言ってくれた人も、これはファンドレイジングの成功ではないかと考えています。
お金を出したか出していないかに関わらず、その人の価値観はあなたからNPOの活動やその受益者、社会背景の説明を受ける前とは、ほんの少しだけ変わったはずです。敢えて大げさな言い方をすれば、「世界の見え方」が変わったと言えるのではないでしょうか。

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ゴミ拾いの活動に1度参加すると、それから道を歩いている時に落ちている缶やタバコの吸い殻がよく見えるようになります。
それと同じように、それまでは「真剣に働かなかった自己責任だ」と思っていた路上生活者の方に対して、「あの人にも家族はいたのかな」と思いを馳せたり、就活に失敗したと言っていた甥っ子に「ちょっと電話かけてみるか」と思いたったり、ひとり親で子育てしている友人をバーベキューパーティーに誘ったりすることが起きるかもしれません。
今まで興味のなかった社会派のドキュメンタリー本や映画に触れ、友人や同僚との話題にしてくれるかもしれません。視点が変われば想いが変わり、想いが変われば行動が変わります。それは、その時すぐにではなくても。100万円の資金はすぐに無くなりますが、100人の人たちの変化は簡単には元に戻りません。

「NPOと企業の違いは何でしょうか?」とよく聞かれます、ここで一言で語ることは難しいですが、私がファンドレイジングの観点からいつもお答えしているのはこんなことです。(どちらが良いとか悪いではなく、プロセスの違いの話です。)

企業は「私たちにお任せください!私たちが社会を変えます(だから弊社の商品を買うと幸せになれます)」と言います。
NPOは「私たちだけでは社会を変えられません!一緒にお願いします(あなたが必要なんです)」と言うのではないでしょうか。

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カリスマNPO経営者“だけ”が社会を変えるのであれば、私たち一般市民はそれを黙って見ているか、せいぜいお金や労働力で応援することしかできません。けれども、それで人々は本当に希望を持つことができるでしょうか。
応援する「ファン」がコートに立つ「プレイヤー」になることは稀です。むしろ、”特別なあの人”と“普通な自分”を比較して、スポイルされてしまうリスク、政治と同じように「じゃあ自分はやらなくてもいいし、すごい誰かにお任せしよう」「なぜ日本には、スティーブジョブスのような天才がいないんだ」という、依存的な気持ちになってしまうリスクもあります。

だから私たちは、ファンドレイジングを「資金調達」ではなく「参加機会の提案」や「仲間づくり」と説明します。人の想いや考え、価値観に働きかけていく手段であり「あなたが必要だ」というメッセージを伝え、社会に市民と参加を増やし、新しい勇気や・希望や・つながりや・創造的合意を生み出して行く技術なのだと。
アカツキのミッションは『参加と協力の仕組みを育てる』。まだ若いNPO法制度やファンドレイジングの仕組みを育て、文化を作って行くのは私たちです。資金調達に尻込んでいた団体も、このブログを通じてファンドレイジングに興味を持ってもらえたら幸いです。

文責:永田賢介
*本記事内の写真は、2017年度「ふくおかファンドレイジング・ゼミ」のものを使用しています。