【29歩目】新規スタッフ採用の際に「しない」5つのこと

こんにちは、認定NPO法人アカツキの永田です。

2015年からスタートしたブログ、『ひとりでできぬもん!』今回から、あまりテーマを絞らずに、NPOの運営について、その時その時でアカツキが取り組んだことや、永田が気になったテーマについて、取り上げていくことにします。

さて、アカツキ自身は規模も小さく、スタッフを増やす機会はそう多くありませんが、クライアントの採用条件整理や面談の同席、新入職員の研修の担当をしていたり、またNPOではありませんが、年に一回、採用面接のお手伝いをしていたりします。

今回は、自分の振り返りや整理も含め、その時に考えてること、特に、一般的には当たり前と思われているけれど、小規模NPOでは「しない」方が良いのではないか?と感じたことを、ちょっとまとめてみました。

1)公募「しない」

NPOに限らず、スタッフの数が少ない小規模の組織では、配置換えや異動もないため、業務内容よりも、人間関係や組織の文化との相性が重要になります。新しく採用しても、すぐに辞めてしまえば、また採用・教育のコストがかかるだけでなく、「自分たちの組織がいけなかった」「相手のここがダメだった」など、精神的にも負担がかかります。

求人広告、ハローワークなどで公募した場合は、たくさんの候補者に会える代わりに、その人の人柄、能力、価値観を知ること、またこちらの団体のことを、せいぜい面談の30分〜1時間程度で知ってもらうことは、ほぼ無理ということになります。

せめて、自団体のWebサイトやSNSの方が、関係者や知り合いのつながりから出会えそうです。完全にゼロからのスタートではない方が、教育だけでなく、コミュニケーションコストの削減や、ミスマッチングのリスクを減らすことができます。

アカツキの場合は、これまでスタッフになったメンバーは全員、クライアントや、セミナー参加者、元インターン、共通の友人のつながりなど、数年前からよく知っていた人です。その上で、個別にお声かけし、中期経営計画・財政状況の内部資料・事業の具体的な案件・就業基本心得などをお見せして、対話の中で相互に合意しました。採用決定までに、何人もの候補者と相談し、お互いの本音で見送りしたケースもります。

2)忙しい時期に採用「しない」

人件費に活用できる、大口の助成金や委託事業がとれた、あるいは売り上げや寄付が拡大するタイミングでスタッフを増やそう!という判断になることは多いと思いますが、個人的には、これはあまりお勧めできません。

例えばITベンチャー企業が、10人のスタッフを15人に拡大したい!という時に、SEを採用するとか、NPOであっても、同業種が多い福祉事業所が、資格専門職としてある程度考え方や知識・技術が体系化されている支援員を増員するのはいいのかもしれませんが、小規模NPOの場合は、団体ごとに求められる能力や組織のルールが異なり、ルーチン・マニュアル化されていない(すべきではない)業務も多くあります。

そういう団体が忙しい時期に採用すると、どうなるか?先輩スタッフは自分の業務で手一杯で、OJTの教育や引き継ぎをする余裕がない、外部の研修もない、という状態で、現場に新人スタッフが放り込むことになってしまい、いきなり不満や負担が溜まってしまいます。

気持ち良く・長く働いてもらい、専門的な知識や技術を学び、活躍してもらおうと思うのであれば、教育ができる・なるべく余裕のある時に採用する方が良さそうです。

3)ビジョン・ミッションへの共感を条件に「しない」

NPOのスタッフ募集のページなどを見ると、ほぼ必ずと言っていいほど「ビジョン・ミッションへの共感」と記載されているのを見かけますが、共感が「全くない」人は、そもそも応募して働きたいとは思わないでしょう。また、短く書かれた文章を読んだだけで全て理解できるものではなく、現場で関わる中で、他のスタッフと議論・対話しながらその意味合いや体感が得られるものです。

それを、力関係の不均衡な採用面接などで、最初に『共感していますか?』と聞いても、『はい、強く共感しています!』以外の答えはほぼ出ないでしょうし、その場で約束させることで、後からの反論を封じてしまうのも、多様性が必要な組織運営においては、あまり健康的とは言えないと感じます。

また、子どもの支援など現場に近い団体の経理担当者など、事務側の職員の場合は、あまりビジョン・ミッションに強い共感がない方が、業務量や財政状況などを冷静に見て、運営について判断・議論できるという話もたまに聞きます。

いずれにしても「ビジョン・ミッションへの共感」は、大き過ぎる条件なので、もう少し具体化し、「子どもの話をじっくり聞くのが得意な人」「初対面の人とのコミュニケーションが好きな人」「外国人に対する苦手意識・差別意識のない人」「様々な業務を浅く広く担える人」「スケジュールを自己管理できる人」「細かいチェック作業が苦にならない人」など、具体的に業務に必要な行動に落とし込むことで、応募側が向き不向きを自己判断しやすくなるので、お勧めします。

また、引っ越しの時の物件探しと同じで、なんでも理想高く求めてしまうと、いつまで経っても出会えません。完璧な人間はいないので、「ここは苦手でもOK」という項目があれば、安心して応募しやすくなります。

4)代表や事務局長と個別で面談「しない」

小規模NPOの場合、当然「人事」のような担当部署はありません。必然的に、代表や事務局長が職員採用の面接をしていることが多いようですが、中心人物だけの一存で決定するのでは、その後の納得感も得られにくいでしょう。働き始めた後は、他の全てのスタッフとやりとりすることは多く、相性が重要になりますから、可能な限り、複数人と事前に会って話をしておいてもらうことが有効だと思います。

また、採用する前の段階で、希望者に対して団体の運営状況や、現場で起こることなどの具体的な説明をする必要もありますが、代表や事務局長の立場は、広報活動やプレゼンテーションなど、対外的に「良いストーリー」だけを語ることに慣れているので、逆に実態が伝わらなくなることがあります。

実際に一緒に働く人には、良い面だけではなく、うまくいっていないことや、経営課題も正直に伝えて確認してもらう方が、その後『話が違う!』などと、問題になりにくく、またその課題に共に向き合う姿勢を持ってくれる人かどうか、判断することができます。

5)雇用主/労働者の意識で契約「しない」

NPOは多くの場合、対価としての資金を得にくいテーマを事業・活動にしています。逆に言えば、市場になるのであれば民間営利企業が進出していますし、税支出をすることを多くの人が合意しやすい医療や福祉などのテーマであれば、国や行政が直接仕事にし、あるいは制度設計されて点数化された準市場が存在し、医療法人や社会福祉法人などが担っていることが多いです。

働く時の条件提示の中に「給与額」や「福利厚生」を入れることはもちろん必要ですが、そこがメインにしてしまうと、お互いの意識が雇用主/労働者、つまり、指示する/されるの関係になってしまいがちで、対話や議論は生まれにくくなります。

労働者としての条件をメインに契約関係を結べば、当然、不満も出てきやすくなります。特に大企業や行政で働いたことがある人からすると、小規模NPOの運営の現場は『これくらいは仕組み化していて当たり前』『なぜ手当が十分ではないのか』『コストカットして利益率を上げるべき』『マネジメントが不足している』という不満ばかりが出ることになります。

「給与が低くていい、残業や休日出勤が当たり前でいい」という意味ではありません。市場や税収入を前提としない小規模NPOと他を同じで扱うのは無理がある ということです。先のケースはよく見聞きすることですが、どちらが悪いという話ではなく、前提が共有されていなかった・約束の仕方がズレていた と捉えるべきでしょう。

全ての人が、昇進や給与額だけを働くモチベーションにする訳ではありません。対等な「仲間」として働く場合、やりがいや誇りが持てるか・休日や時間の都合のつけやすさ・人間関係の心地ちよさ・学びになるか・主体として運営に参画できるかなど、様々な観点から、職場としての魅力を検討、相談し合えることが必要になるでしょう。

逆に、企業や行政と同じような待遇を準備しようとするなら、結局は大口の補助金や委託事業に依存することになり、多くの市民と共に事業を進めていくNPOの強みは、失われていきます(それでも、実際には下請けの構造の中で徐々に減額が進み、最低賃金に近い労働環境という事業も少なくありません)。

NPOにとって、スタッフの新規採用は、新しい事業を始めることと同じくらい、もしかしたらそれ以上に大きな決断です。人生に置き換えるなら、結婚に近いくらいの出来事かもしれません。

最初にラクをすると、後で揉め事が起きやすくなります。最初に時間とコミュニケーションの手間をしっかりかけ、前提や約束事を確認していくことで、後がスムーズになるのは、採用に限らず、さまざまな「協働」の場面でも言えることです(アカツキでは、この最初のやりとりのことを、「エントリー・マネジメント」と呼んでいます)。

昔からよく言われる「ヒト・モノ・カネ」は、人を資源、つまり生産の“手段”にする考え方です。
市民活動においては、スタッフはミッション達成のための手段ではなく、むしろ目的と位置付けた方が良いのではないか。組織や事業は、関係者それぞれの目的や幸せを実現するための“器”だと捉え直すことで、良い出会いと持続的で無理のない運営が実現するのではないか、と、思い・願っています。