【21歩目】収入が増えた時はNPO経営のピンチ

こんにちは、認定NPO法人アカツキの永田賢介です。

『寄付者が主役のファンドレイジング〜ひとりでできぬもん!』では、アカツキ自身のファンドレイジングの実践やコンサルティングの経験から得られた学びや、考え方を、みなさんと共有していきます。

アカツキではここ2年ほど、ファンドレイジングの講座を依頼された時には必ず、「お金の集め方」というよりも、むしろ「お金との付き合い方」または「距離の置き方」に注力してお話をさせてもらっています。

それは、助成金/補助金を多く獲得した団体が、むしろ運営が悪化しているケースをしばしば耳にするようになったからです。(以下は、ファンドレイジングセミナーの時に使用したスライドの目次です)

例えば、お金が無い時には・ないからこそ、地域のたくさんの人に頭を下げ、お礼を言い、“お互い様”の協力関係とコミュニティをつくれていた活動が、助成金/補助金を獲得した途端に全て楽で効率的な外注となり、「役割」は「業務」に変換されてしまったケース。

人々の関心は薄れ、代表とコアメンバーだけが苦しみながら活動を続けています。もちろん、助成金/補助金が切れた後に、同じだけの協力関係を取り戻すのは容易ではありません。

また、助成金/補助金が取れても、事業の経費にしか使用できず人件費は払えないケースが多く、チラシ印刷代・レンタル会議室代・外部講師の謝金・そして後々使用できない消耗品に全て消えてしまうことも少なくありません。管理部門は、膨大な領収書管理と精算業務を無償労働でしないといけなくなり、中のスタッフが擦り切れてやめてしまうなどの現象が起きています。

この時に不足しているのは、そもそもお金あればできること/お金があってもできないことの区別と、予算の考え方、特に「時間予算」という観点ではないか、と我々は考えました。

アカツキでも以前から、その時の忙しさを可視化する工夫を行い、新しいことを始める前には何かの時間を削減する・諦めることを意識してきました(これはその後の、立ち止まり対話するための助成金「AKBNファンド」の発想にもつながっています)。

以下は、その発想をセミナー内のクイズ形式ワークに落とし込んで、考えてもらう時のスライドです。必ずしも、お金があったからといって経営がスムーズにいく訳では無いですし、お金があまりなくても、皆で楽しく持続的に活動できる場合もあります。

しかし、最もリスクが大きいのは、政府の補助金や外資系企業の寄付、行政の委託事業など人件費にも活用できる大きなサイズの資金が獲得できた時です。団体の財政規模が急激に膨れ上がり、事務所を借りる・人を雇うなどのランニングコストが必要なものに手を出し、資金が切れた後の規模縮小(それらを手放す・解雇すること)が難しくなってしまいます。

そして規模の維持=資金を獲得するためなら、行政や企業に依存し続けたり、本来のビジョンから外れた事業に手を出す、または当事者の不幸を過度にメディアに喧伝し、自分たちの正当性を訴えることを辞さなくなります。対個人の寄付依頼や、総会など会員とのコミュニケーションは後回しになります。

*下記の図は、木下斉さんブログ「補助金依存の悪循環」より引用

本来、団体の事業がしっかり稼げるものかどうかと、その団体の代表の能力はイコールではありません。むしろ、企業も行政も取り組まず、社会的なスポットも当たらないような分野に取り組んでいる先進的な事業ほど、当然市場がなく、そこで働く人には給与が払いにくい という逆転現象すら起こりうるでしょう。

しかし、一度企業で働いたことがある人は特に、お金=評価 という思考のクセが染み付くからか、「稼げないボランティアNPO(またそこにいる人)はダメだ、稼げるビジネス型NPO(またそこにいる人)はすごい」という発想になることがあります。これは、「無給の主婦業には社会人としての価値がない、給与の低い保育や介護は誰にでもできる仕事だ」というような思想ともつながっているように自分は感じてしまいます。

もし、団体の代表者や中心になるリーダーが「お金の量=自尊心」という状況に陥っていたら、かなり危機的な状況ではないでしょうか。多様な価値基準を持つことのできるNPOが、成功/失敗と金額の大きさ という単純な指標、手段の一つであったお金に置き換えられてしまっていることになります。

アカツキの中期経営計画ではなだらかな曲線を描き、その(財務的な)成長スピードはとても緩やかです。職員が増える・減る際等の大きな変化が起こるには更にそのコストを差し引いた予算を計上します。

加えて単年度毎の事業計画では、理事のアドバイスに基づき、予算は前年度の120%以内で計上するルールがあります。それは無理な拡大によって組織が壊れるリスクを具体的に想定しているからです。

お金を稼ぐ、集めることは難しいですが、適切に使う・上手に管理することはもっと難しい と、被災地支援の様子を見聞きしていても思います。こちらの日本昔話(飯振山)にも教訓があるように、人間の弱さ・欲望との付き合い方の難しさは、昔から語り継がれているのかもしれませんね。

*本ブログの写真は、アカツキ6周年記念パーティーの時のものを使用しています。