【18歩目】クラウドファンディングは“魔法のツール”じゃない

こんにちは、NPO法人アカツキ代表理事の永田賢介です。『寄付者が主役のファンドレイジング〜ひとりでできぬもん!』では、アカツキ自身のファンドレイジングの実践から得られた学びを、みなさんと共有していきます。

今回は、震災後から急速に増え、今ではNPOや企業にとってもすっかりスタンダードになったクウドファンディング(以下、CFと表記)という仕組み・手法について、主に活用の「注意点」として、ややナナメの観点から書いていきます。

なお、この記事の中で使用している画像は、アカツキが2014年に福岡県NPO・ボランティアセンターと協働で制作した冊子「クラウドファンディング基礎 10のポイント+3つの注意点」から引用しています。(アカツキWebサイトでも全ページPDFで無料公開中)

*アカツキこれまでにCFでは、自団体と支援先を合わせて26件・総額約1030万円・1190名以上参加の実績があります。

まず、手段・ツールとしてのCFの活用を検討する時に注意したいのは、「どこからともなくお金が集まってくる魔法のツールではない」ということ。よっぽど大手の団体や有名人が参加するプロジェクトでない限り、基本的には、知り合い・そのさらに知り合いまでが支援者候補の対象範囲と考えるべきでしょう。

そして、あくまでもインターネットを通じたクレジット決済が前提になるということ。普段の団体の寄付者や応援してくれる方々の年代によっては、CFは全く機能しないばかりか、支援者からの「システムの使い方がわからない」という問い合わせ対応に追われた挙句、「現金で渡すから代わりに入れてくれ」という依頼になることも少なくありません。

その場合でも、CFシステムを経由した決済手数料(概ね13〜20%の間)分は当然経費としてかかります。もちろん「これまでの支援者は年齢層が高く手渡しや郵便振替が良かったが、現在増えつつある若手社会人とのつながりを寄付者という形で顕在化させたい」という場合などにはCFが有効ですが、ツールありきではなく、自団体との相性はよくよく精査する必要があります。

また、多くの場合CFは「購入型」としてリターン(お返し)をつけることになりますが、魅力的なリターンをつけようとして商品やサービスをつけた場合は、その分のコストもかかります。場合によっては郵送費、もちろんその購入や配送の人件費もかかります。「集まった支援金 − 手数料 − リターン − 人件費 = 実質的に手元に残る現金」の計算式で、結果的に、CFを実施したことによって収支がマイナスになることさえありますので、こちらも、事前によく検討することをオススメします。

リターンについては、金額(単価)の設定も重要です。企業・ビジネス的な価値観だけで考えれば、例えば「3,000円・5,000円・10,000円」という区分よりも、「5,000円・10,000円・30,000円」の方が、効率的な資金調達になるという説明だけで済むでしょう。

ただ、NPOのファンドレイジングにおいては、資金調達だけではなく、課題やビジョンに対する市民の参加促進や啓発の意味も含みます。低い金額の枠を設定しないことで、そのテーマにちょっとだけ興味があるかも…という層と関わるきっかけを失ってしまいます。

もちろん、500円や1,000円など極端に低い金額を設定してしまう、区分を多くし過ぎてしまうことによって、コミュニケーションや事務管理の手間が増大し、資金調達として成立しないことも問題です。支援者となりそうな方々の顔を思い浮かべ、また、時に直接ヒアリングをしながらプロジェクトを設計することで、このような事態は避けやすくなります。

ここで書いたような注意点を、しっかりと事前に説明してくれるCFのプラットフォーム事業者も、そうでない会社もあります。2013年頃は特に、色んな団体がCF事業者からの営業を受けてCFを実施したものの、全く成功せず、または成功したが負担感だけが残り「2度と寄付集めなんてしたくない!」という声が聞かれたのが、実はこの冊子をつくるきっかけになりました。

他に、現場のNPOから聞いた話の中には、「日本語があまりできない外国人の方から文章指導をされた」「システムエラーが頻発して支援者からクレームになった」「夜と土日で動くボランティア団体なのに平日日中しか対応してくれない」「有名な団体には手厚いのに無名な団体だと上から目線でアドバイスされる」という声もありました。

社会貢献というキーワードでつながっていても、当然、企業には企業の理屈があります。NPO側の理想を押し付けるよりも、こちらが「判断をすべき顧客」だという認識と「ツールはあくまでも手段」という考えを持ち、互いの良い部分を活かし合う方が良さそうです。事前に、プラットフォームサイトに書かれている説明文やQ&A、免責事項などをよく読み、自己責任で利用することも大切ですね。

最後になりましたが、CFに限らず、ファンドレイジングはお金を集めて終わりではありません。むしろ、お金集めは折り返し地点、そこからプロジェクトの実施、報告を通じて支援者との関係やコミュニティをつくっていくことができます。逆に、報告をしないまま、予定したリターンを届けないなどの振る舞いをした場合は、お金が絡んでいる分、団体の信頼をあっという間に失ってしまう、「二度と支援しない!」思われてしまうリスクがあります。

アカツキが支援してCFに取り組んでくださったある団体は、「お金だけが目的だったら、助成金をとった方が早かった。でも、CFを行うことによって、そのプロジェクトはスタート前から100人の賛同者・仲間がいる取り組みになった。CFを通じて団体内のミッションの共有や議論のきっかけになった。正直、とても大変で負担でもあったけど。」というようなコメントを残してくださいました。

色々書きましたが、CFという仕組みの存在はNPOのみなさんにとってポジティブで強力なツールの一つです。必要な状況・必要なタイミングで活用できることを願っています。

文責:永田賢介
*本記事内の写真は、「NPOのためのクラウドファンディング実践講座」のものを使用しています。