【28歩目】安心して失敗できるための助成金

こんにちは、認定NPO法人アカツキの永田です。

『助成金を出すことの専門性〜ひとりでできぬもん!』では、アカツキ自身が助成金について「助成金を出す側」「助成金を受ける側」「助成金の審査を行う側」と、様々な立場で関わってきた経験から得られた学びや、考え方を、みなさんと共有していきます。

先日、とある助成財団・市民ファンドの先輩方と、リモート飲み会をしていて、改めて思い至ったことがありました。それは、助成金を拠出する際には、一定の「採択件数」が重要だということです。
なぜ、数が重要か?多くの団体に支援を届けたい ということも、もちろんその一つです。しかし、それ以上に僕が思っていることは、「安心して失敗できる件数を増やすため」です。

“失敗”という言葉を使うと、やや誤解も招いてしまうかもしれませんので、こう、言い換えた方がわかりやすいでしょうか。「助成した団体の全てが、当初の予定や目標通りに上手くいくべきという、過剰な(誤った)期待をせずに済む」と。

そもそも助成金は、ただ、善いことにお金をばら撒くものではないとアカツキは考えます。更に言えば、「善い」という定義や基準がどこかに存在する、という変え方自体が、自由で多様な市民活動からは遠いものです。

では助成金の役割とは何か、ここでは、「まだ社会の中で決して十分とは言えない、人々が社会を変えようとする時の、さまざまな困難に立ち向かう力、または、リスクのある新しいチャレンジを後押しするための仕組み」と考えたいと思います。

リスクとは予想不可能なこと、百発百中ではないということ。発明家のトーマス・エジソンが『天才は1%のひらめきと99%の努力』という言葉を残したように、新しいものを生み出すためには多くの失敗、つまり「このやり方ではないという発見」が重要です。
実際に、エジソンは白熱電球が長時間持続するフィラメント素材の発見までに、20,000回の失敗を繰り返したと言われています。

新しいこと、独創的なアイデアから、イノベーティブな事業が生まれるためには、失敗は必須条件と言っても過言ではないでしょう。しかし、貨幣換算できない・すべきではない領域を担う、“市場が無いベンチャー”とも考えられるNPOの活動においては、投資を受ける という考えがそぐわないケースも少なくありません。

話を戻しますと、助成金に一定の数が重要と考えられるのは、採択できる件数が少ないと、どうしても「確実に成功が予測できるアイデア」「安定して運営している団体」「既に実績のある事業」などが選ばれがちで、結果保守的に、つまり大きな失敗はないが、成功の幅も少なくなるためです。

確実な成果を約束させるのであれば、それはもはや助成金ではなく、委託事業に近いものかもしれません。

もちろん、リスクのとれる助成金は、数だけではなく、プログラムや、審査基準、PO(プログラム・ディレクター)や審査委員の考え方、ドナー(資金拠出者)の期待にも依ります。

実際にアカツキでは、理事会での長い議論と総会の承認を経て、会員などの支援者、審査委員のお力も借りながら、『立ち止まり対話するための助成金・AKBN(アケボノ)ファンド』という、これまでに無い、成果の予測が難しいプログラムで、3年間継続してくることができました。

それでも、採択件数が最大2件、アカツキのコンサルティングがセットになっているというプログラムでは、十分にチャレンジングな取り組みができたのか?という、懸念や新たな課題も残っています。

もうすぐ公開となる4期目の募集では、この辺りを意識してアップデートされた助成プログラムになる予定です。助成金を出す側の我々がまずリスクを取れるのも、そのリスクをシェアして少しずつ引き受けてくださる支援者の皆さんがいてくれるからこそです。

それによって、NPOや、ひいてはその先にいる市民が「安心して失敗できる」、トライアンドエラーで長期的な変化を生み出しやすい地域環境をつくることに、少しでも貢献できたらと願っています。

 

*本ブログ記事の写真は、2017年度AKBNファンド開発期に、ヒアリングに伺った財団やファンドで撮影させて頂いたものを使用しています。