【22歩目】NPO組織評価の「技術」と「限界」

こんにちは、認定NPO法人アカツキの永田賢介です。

『寄付者が主役のファンドレイジング〜ひとりでできぬもん!』では、アカツキ自身のファンドレイジングの実践やコンサルティングの経験から得られた学びや、考え方を、みなさんと共有していきます。

昨今、休眠預金の資金分配を意識してか、「NPOの評価」が話題ですが、それはどのような指標と技術によってなされ、また、どう使用されるべきなのでしょうか?
アカツキは、3年ほど前から「組織診断」のサービスを開始し、これまで2〜30団体に対して行ってきました。今回はその経験から、考えてみたいと思います。

まず、アカツキがNPOの組織診断をする場合には、前提として、ガバナンスを「経営者の統治管理」ではなく「相互の緊張関係」と日本語訳し、そこをハード面とソフト面、そして事実と認識に分けます。そのため、少なくとも2×2=4区分それぞれに対するツールを使用しています。

①ハード面/事実

約60項目からなる事務体制チェックリストを使用し、こちらの職員が先方の事務所に訪問して書類やファイルを全てチェックします。
結果は「対応が必要な優先度や放置リスク」に合わせて、項目ごとにS〜C判定と改善対応策をつけ、お返しします。例えば、納税申告漏れは追徴課税のリスクが高いが、職員が2,3名しかいない団体の就業規則は法律上は必須ではありません。上記の判定基準も、団体が認定を目指すかどうか、事業規模などによっても変わります。

②ハード面/認識

上記と似ていますが、もう少し簡易なリストもの使用して、“セルフチェック”してもらう点が違います。そうするとかなりの割合で、適切に実施できているかわからない・判断がつかない ということが起きます。団体によって、定款や職員の働き方、収益事業区分は異なるので、個別の複雑な読み解きが必要になるからです。
またしばしば、事務が適切に実施できている団体ほど×や△をつけ、漏れがある団体ほど◯をつけるという逆転現象すら起こります。そのため、事務診断における自己申告と答え合わせは、良くも悪くも“ショック療法”に留まるとも言えます。

③ソフト面/事実

人の考えや思い、行動にアクセスする場合は、ヒアリングやアンケートという手法をとることになります。この場合は、メタファシリテーション(事実質問)の手法を用い、過去に起きたことやあった発言から探していきます。
もし、理事メンバーの主体性やコミットメントを測ろうとしたら、過去の理事会出席数や、議題の提案数で、または提案された議題に対して建設的な批判をしたかどうかを知ることで、推察できるでしょう。事務局が属人的ではなく、透明性もある業務遂行をしているかどうかは、マニュアルの有無や意思決定時の決裁フロー、団体の年間収支を聞いた際にすぐ回答できるかなどを、判断の材料にすることができます。
但し、これをもし代表が近くにいる状態で事務局員に聞いた場合、本音で話せるかどうかは怪しく、忖度が起きる場合もあります。聞く側の人間と聞かれる側の信頼関係にも影響されます(特に、組織の課題を特定するようなネガティブで重要な情報ほど出てきにくいものですから、その把握までに半年〜数年かかることもあります)。

④ソフト面/認識

ソフト面の事実を把握するのは、場の条件設定や信頼関係構築の時間がかかります。そのため、アカツキは独自のチーム診断ツールを用いて、短い時間で大まかな状況を掴むことができるようにしています。これは、あくまでもメンバーの個々人の大まかな認識を把握することで、改善に活かすものです。
例えば、「団体内でビジョンやミッションをしっかり共有できていますか?」という質問を、代表1人にするのでは全く意味がありません、それを診断結果にすることもできません。なぜなら、「しっかり共有できているかどうか」は、個々人によって捉え方が異なるからです。そのため、聞き方も少し変えた上で複数のメンバーに聞き、その平均を取る、またはそれぞれのズレの幅を確認する必要があります。これは人数が多いほど、精度が上がります。

ただ、理事会の発言が多かったとしても、現場感のないアドバイスかもしれません。万全な労務書類を揃えていたとしても、上司のパワハラ発言はあり得ます。「弱者救済」的なビジョンやミッションが、支援対象となる当事者の尊厳を傷つけている可能性もあるでしょう。
ゆえに、組織のソフト面の質やコミュニケーションの実態については、正確な診断はかなり困難であり、ましてそれ点数化したりを序列化することは、望ましくないとアカツキは考えます。

結論として、アカツキは第三者として現場NPOに対する組織診断は、あくまでも結果を本人たちにお渡しし、判断材料の「参考にしてもらう」ものに留めるべきで、価値判断をするべきではない と考えています。それは、現場NPOが障害や貧困の当事者に対して点数付けをするべきはない ことと同列だと思っています。

では、NPOに組織評価やガバナンスが不要か?というと、そうは思っていません、NPO、少なくともNPO法人には、理事会や総会、監事といった役割や機能があります。安易に「外部の専門家」に依頼し、点数をつけてもらうのではなく、自分たちの身の回りの会員や支援者に見てもらうのが先ではないでしょうか。

事務局会議にオブザーバーを呼んで、代表と職員の接し方、話し方、その時の表情を知ってもらうことができます。
事務所見学の日を企画すれば、ファイルの整理状況や、金庫が表に出っぱなしではないか、見てもらう緊張感があります。
総会日程をもっと早くから決め、いつもと違うデザインの封筒で案内を送り、ぜひ沢山の質問をしてください!とお願いすることもできます。

コンサルタントや支援者が「有識者」として振る舞うのではなく、そこに依存するのでもなく、多くの市民(生活の有識者)に拓かれた透明性の高い運営こそが、NPO法の本来の趣旨に近い在り方のはずです。
私たちアカツキも、外部の第三者の意見も「参考」にしながらも、まずは会員やクライアントの皆さんの声に耳を傾け意見を積極的に集めながら、組織をより良くしていきたいと考えています。

*本ブログの写真は、アカツキ事業報告会 in 東京の時のものを使用しています。